【税理士が解説】小規模企業共済を利用した節税!加入要件と節税効果、メリット・デメリットとは

個人の節税

この記事では経営者だけが加入できる小規模企業共済を活用した節税ついて解説します!

「小規模企業共済」って名前だけは聞いたことあるけど、よくわからないって方多いですよね。小規模企業共済を運営している中小機構のホームページを見ても、具体的な節税効果デメリット加入時の注意点などについてはいまいち理解できないかもしれません。

小規模企業共済は他の節税商品と比べて何がお得なのか、ウェブサイトに記載されていない加入要件、加入・脱退時の注意点など、多くの事例を見てきた税理士の目線で解説していきたいと思います。

小規模企業共済とは

小規模企業共済とは独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」)によって運営されている、個人事業主や小規模法人の経営者の退職金を積み立てることを目的とした仕組みです。

掛金は毎月1,000円~70,000円までの範囲内で自由に設定することができ、後から金額を変更することも可能です。

その名前の通り、小規模な企業の経営者のみが加入することができます。

勘違いしがちなのですが、小規模企業共済は法人の節税ではなく実は個人の節税なんですよね。法人で加入するわけではなくあくまで個人加入であるため、申込時に間違えないようにしましょう。

加入のメリットはズバリ税制の優遇です。

支払った掛金が全額所得控除という形で経営者個人の所得から差し引くことができるので節税効果が得られますし、退職時に受け取る一時金は原則的には退職所得として税務上有利な形で受け取ることができます

実質的には積み立てなのに経費にできるって考えるとかなりお得な感じがしますよね。税理士から見ても個人の節税としてはかなり優先度の高い節税方法だと思います。

小規模企業共済はそんなお得な制度ですが誰でも加入できるわけではなく、加入には一定の要件がありますので、まずはその要件について確認していきましょう!

・個人事業主または小規模法人の経営者向け退職金の積み立て

・支払った掛金の全額が個人の所得から控除できる

小規模企業共済の加入要件

従業員5人以下の法人の役員か個人事業主であれば加入可能

まずは中小機構のホームページに記載されている基本的な加入要件を確認しましょう。

小規模企業共済の基本的な加入要件
  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

中小機構ウェブサイトより抜粋

ちょっと複雑で難しいので一般的な中小企業向けにざっくり整理すると、「従業員の数が5人(一定の事業の場合は20人)以下である法人の役員個人事業主が加入できるということですね。

この従業員の数5人というのは役員を含まない正社員を指します。例えば法人の場合には役員が何人いても正社員が5人以下であれば加入することができますし、代表取締役ではなくて平の取締役であったとしても法人の登記簿謄本に記載されている役員であれば加入が可能です。

また登記などを行っていない個人事業主も同様に、雇用している社員が5人以下であれば加入可能です。

ちなみに小規模企業共済に加入した後に、会社の従業員が増えて6人以上になってしまったとしても、加入時点で正社員が5人以下であれば継続することは可能です。

5人の判定はあくまで加入要件であって、継続要件ではないんですね。これから会社を大きくしていきたいと考えている場合には、早めに加入しておいたほうがいいですね。

会社が大きくなってからでは加入できないので、早めに加入!

メインの会社で要件を満たしても実は加入できないケースもあり

これはけっこう見落としがちなんですが、役員をしている会社では従業員5人以下なのに加入できないというケースも存在します。それは、複数の会社から給与をもらっており、そのどこかの会社の正社員の数が6人以上であるときです。

例えばサラリーマンが副業などで会社を設立した場合や、別の会社で役員として名前だけ入っているけど給料はもらっていない場合、個人事業と会社を同時に経営していて、いずれかの正社員が6人を超える場合など、これらはすべて加入要件を満たさないことになります。

簡単にいうと、自分が所属しているすべての事業体で要件を満たしている必要がある、ということです。意外と要件厳しいですよね。

ただメインではない会社の方がアルバイトである場合など、状況によっては相談できるケースもあるようなので、自分の加入要件が気になる場合は中小機構のコールセンターで確認してみることをオススメします。

小規模企業共済の節税効果と出口課税

小規模企業共済が個人の節税であるということは最初にご説明しましたが、実際にどのくらいの節税効果があるのでしょうか。また解約時、受取時の課税について解説しているサイトがほとんどないので、出口における課税についても解説していきます。

小規模企業共済の節税効果

節税効果は掛金の金額にもよりますし、経営者である個人が元々どのくらいの所得があるかに依存するので、具体的にいくらということを示すのは難しいのですが、小規模企業共済の掛金は全額所得控除が可能なので、そこからご自身の節税効果を試算することができますので、その方法について解説していきます。

まず前提知識として、所得税は「超過累進課税」という方式で課税が行われており、所得が大きい人ほど高い税率が課せられる仕組みになっています。

そのため、所得が大きい人ほど小規模企業共済掛金による節税効果は大きいということになりますね。

国税庁HPより抜粋

所得税の他に、住民税が一律で10%課税されますので、上記の所得税の税率と住民税の税率の合計課せられる税率ということになります。

つまり、「小規模企業共済の年間の掛金合計 × (所得税率+住民税率)」が実際に節税できる金額です。

例えば課税所得が1,500万円で、小規模企業共済の掛金が年間84万円(月額7万円)の場合、まず所得税率が33%と住民税率は10%で合計税率43%になりますので、節税額は

84万円×43%=毎年約36万円の節税

ということになりますね。

小規模企業共済による節税額

小規模企業共済の年間の掛金合計 × ( 所得税率(5%~45%)+住民税率(10%) )

個人の所得が大きくなるほど小規模企業共済による節税額も大きくなりますので、積極的に利用していきましょう。

退職時にもらえる共済金の税金はどうなる?

小規模企業共済についてウェブサイトで調べるとほとんどがその支払時の節税効果の話ですので、退職した際にもらえる共済金に関する税金についてお話しておきます。

小規模企業共済には満期がなく、原則的には退職時にそれまで支払った掛金とほぼ同額を共済金という形で受け取ることが可能です。

ほぼ同額、というのは加入年数や離脱の理由によって共済金の金額が若干変わるということなんですが、原則的に退職時には払った掛金より若干多い金額を受給可能だと考えてOKです。

退職時にもらえる共済金は受け取り方によって税務上の取り扱いが変わります。

基本的には退職所得という扱いになりますので、まったくの非課税で受け取れる部分があったり、課税される場合でも通常の給与などより有利な形で課税されるなど、優遇措置があります。

受け取り方ごとの課税の違いは以下の図の通りです。

大きく分けて一括で受け取るか分割で受け取るか退職所得になるか雑所得になるかという違いが生じることになります。

どちらが有利かというのは勤続年数やその他の年金の受給状況など、その時のステータスによるため、退職時のご自身の状況によって選択するのがよいかと思います。

受け取り方は選択可能!退職時の自分状況によって有利な選択をしよう!

小規模企業共済と生命保険との違い

これはよく比較されるのですが、小規模企業共済と貯蓄型の生命保険では節税効果として何が違うのでしょうか。税務上の取り扱いの違いをご説明します。

全額控除と一部控除

これはあくまで個人で加入する生命保険と小規模企業共済との比較ということになりますが、最も大きな違いは、小規模企業共済は支払った掛金の全額が所得から控除できるのに対し、生命保険金は最大で4万円(種類を分けることで最大12万円)までしか控除することができないという点です。

これはかなり大きな違いですよね。もちろん生命保険は加入の目的もリターンも違うので単純比較はできないのですが、支出時の節税という目線で考えると、貯蓄型の生命保険は小規模企業共済と比べると節税効果は見劣りします。

経営者であれば、生命保険は個人で加入するよりも法人で加入することで大きな節税メリットを得られるため、できれば法人で加入しましょう。

また逆に、掛け捨ての医療保険などは個人で加入したほうがいいですね。

この法人で加入する生命保険の節税メリットについては今後別記事で解説します。

死亡保険金

生命保険は基本的に、亡くなった際に遺族に保険金を遺すということを目的とした商品であるため、保険事故が発生した場合には生命保険金を受け取ることができます。この受け取ることができる生命保険金の金額は、加入時に契約によって決まっている場合がほとんどですので、生命保険には貯蓄機能というよりも、不測の事態に対する備えという側面が強いです。

一方で小規模企業共済はあくまで積み立てですので、不慮の事故や病気で亡くなってしまったとしても、それまで支払ってきた掛金以上の金額を受け取ることはできません

何かあった時の備えという意味では、圧倒的に生命保険に軍配が上がりますので、小規模企業共済は節税と積み立てだと割り切って、不慮の事態に対する備えとしては小規模企業共済とは別で生命保険を検討しましょう。

生命保険との違い

  • 小規模企業共済であれば掛金全額が所得控除の対象だが、生命保険は最大4万円まで
  • 個人の節税としては小規模企業共済の方が有利
  • 大きく節税するには法人で貯蓄型の生命保険(長期定期)に加入するのがオススメ
  • 死亡時の対策としては不十分。不慮の事態に対する備えとしては生命保険を活用しよう

その他小規模企業共済に加入する際の注意点

ここまで小規模企業共済のメリットばかり説明してきましたが、デメリットももちろんあります。場合によっては加入を見送るべき状況ということも有り得ますので、加入の前にデメリットも把握しておいてください

原則的に中途解約は不利

満期という概念がないため中途解約という言い方が正しいのかはわかりませんが、ご自身の都合で退職前に解約をした場合や、掛金の支払いを12ヶ月以上滞納して強制解約となった場合、支払った掛金の合計額よりも受け取れる解約手当金の金額の方が少なくなることがあります。具体的には、240ヶ月(20年)以内に任意解約した場合には受給額が掛金合計額を下回ることになります。

それまでの節税額を考慮するとたとえ満額戻ってこなくてもトータルでの収支はプラスになりますが、毎月の掛金の金額を減額することは可能ですので、できれば少額であっても退職時まで継続しておいたほうがいいですね。

自己都合の退職の場合、共済金の受給額が減額される

法人の役員などの条件で加入していた場合、その会社を任期満了ではなく自己都合で退職(病気やけがによる退任の場合を除く)して役員ではなくなってしまったときには、小規模企業共済の加入資格を満たさなくなってしまうため、解約することになります。

その場合は準共済金という取り扱いになるため、退職時に受け取る共済金よりも受給額が少なくなることになります。こちらもそれまでの節税効果を加味するとマイナスではありませんが、近い将来に退職の可能性があるのであれば加入前にシミュレーションを行ったほうがよいかもしれません。

加入期間が極端に短い場合、掛け捨てになってしまう

こちらはあまりないパターンかもしれませんが、6ヶ月以内に会社の解散や病気、けがなどにより退任することになってその後加入要件を満たさない場合、それまでに支払った掛金は返金されません

また12ヶ月以内に自己都合により退職して加入要件を満たさない場合も同様に返金されませんので、少なくとも1年以上は掛金の支払いができる状況で加入をしないと圧倒的に不利な加入となってしまいますのでご注意ください。

まとめ

今回の記事のまとめです。

小規模企業共済を利用した節税のまとめ

  • 従業員5人以下(一定の業種は20人以下)の経営者が加入可能な個人の節税
  • 支払った掛金全額が所得控除の対象なので節税効果はかなり大きい(最大年間84万円)
  • 退職金積み立てとはいえ不慮の備えとしては不十分なので、生命保険を別途検討すべき
  • 短期解約は不利な場合もあるので、最低でも1年以上は維持できる状況で加入しよう

基本的には個人の節税としてかなり優秀な商品ですので、加入要件を満たしてお金に余裕がある経営者は絶対加入したほうがいいと思います。

また加入要件の関係で、会社が大きくなってからでは加入できないため、いったん少額でもいいので開業したら早めに加入しておきましょう。

退職金の備えとして積み立てたい場合、法人の節税を考慮して生命保険を使った所得の繰延を行ったほうが節税額は大きくなりますので、何かあった場合の備え+退職金積み立てで長期定期保険などを検討してみてもよいかもしれません。

実行する前には必ず税理士に確認!

この記事は10年間100社の中小企業を見てきた税理士が、税務的な視点から実際の税務調査の経験も踏まえて執筆していますが、施策を実行する際には必ず顧問税理士に確認するようにしましょう。

記事で記載している内容は税務上の一般的な取り扱いですが、実際にあなたの会社を見てお伝えしているわけではないので、会社によっては適用されないもの、適用してしまうとリスクがあるものも存在します。あなたの会社のことを一番よくわかっているのは顧問税理士ですので、記事で学んだ知識を基に税理士に相談するのが最も間違いがない方法です。

税理士によっては節税対策に積極的ではないこともありますが、税理士は会社のお金に関する一番の相談相手であるべきなので、もし相談に乗ってもらえないような場合は税理士を変更することも検討してもいいかもしれません。

また顧問税理士がいない場合などはこの記事をきっかけに税理士を探してみてはいかがでしょうか。節税のことだけではなく、融資や補助金などの資金政策や、人材雇用や事業計画など、会社のあらゆるお金に関する悩みを相談できるのが税理士です。

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