今回は車を法人に譲渡することによる節税と税務調査における注意点について解説します。
社長が個人で自家用車を所有していて、会社の取引先や仕事の移動手段として使っている場合には、その実費相当額(ガソリン代、駐車場代など)はもちろん会社の経費にできますが、自家用車の購入費用や車を所有していることに係るコスト(自動車税や車検費用)は経費にできません。
車を所有していて仕事で使っているのに、経費にできないなんてもったいないですよね。すぐに法人名義に変えてしまいましょう。個人所有の車を法人に譲渡することにより以下のメリットがあります。
会社経営者が個人名義で車を所有しているメリットはあまりないので、法人化をしたらまず車の名義変更については検討しましょう。車両本体価格(=個人から法人に譲渡した金額)と車両維持に係る付随費用を法人の経費として計上することができるようになります。
ただし法人への譲渡には絶対に守るべき手順があります。確実な手順で譲渡を行わないと税務調査の際に指摘を受けて逆に多額のペナルティが課せられてしまうこともあります。
この記事では節税手法を実行した際に税務調査ではどのような点の指摘を受ける可能性があるか、税理士が実際の税務調査の経験をふまえて解説していきますのでご安心ください。
ちゃんと理解して確実な手順で実行すれば税務調査で指摘されることはありませんので、ぜひ最後まで読んで確実に実行してください。
車を法人名義にする具体的な手順と注意点
適正な価格設定をする
まず検討しなければいけないのは、いくらで譲渡するかです。
経営者と自分の会社の間の譲渡なのでいくらでもいいと考えがちですが、必ず時価(取引相場)で譲渡を行いましょう。この金額が相場と比較してあまりにも高かったり安かったりすると、利益の移転があったとみなされて課税されます。
例えば、時価200万円の中古車を50万円で会社に譲渡したとします。会社は150万円も安く車を手に入れたことになりますよね。極端な話、会社で買い取ってすぐに転売したら150万円儲かってしまうわけです。
税務上はそのような取引は認められず、これが税務調査などで指摘された場合には、その実質的に会社の利益である150万円に対して課税されてしまうことがあります。さらにここでは説明を省略しますが、売り手側の個人の方もみなし譲渡課税といって税金が取られてしまうこともあるんです。
また逆に買取価格が高すぎる場合でも、社長個人が利益を得たとして給与(会社が社長に給与を現物支給したとみなす)として所得税が課税されます。さらに役員である社長の給与は定期同額(事業年度の途中で変更できない)である必要があるため、この給与とみなされた金額は役員賞与として法人の損金として認められず、法人税が課税されます。
高くても安くても余計な税金が取られてしまいますので、必ず「時価」で取引する!ということを覚えてください。
ところで時価(取引相場)ってどうやって調べればいいのでしょうか。
時価とは一言でいうと第三者間で売買される取引相場なので、ネットで調べるのが手っ取り早いですね。会社で買い取りしようとしている車の車種、年式、走行距離、などをGooやカーセンサーなどの中古車検索サイトで確認しましょう。自分の車と似たような状態のものを見つけたら、その金額の記載されたページを2,3台分印刷しておきます。なぜ数台分なのかというと、たまたまその車だけが安かった(高かった)ということも有り得るからです。税務調査の際に、車の時価をちゃんと確認したと証明するために、証拠をちゃんと残すということですね。これを後述する次の手順で解説する契約書などと一緒に保管します。
譲渡契約書を締結し、金銭の授受を行う
会社に車の名義変更をする際には、法人と個人の間で譲渡契約書を結び、実際に会社から個人にお金を支払います。自分の会社だとこのあたりが適当になってしまいがちですが、第三者と取引したのと同じように明確な取引事実を作る必要がありますので必ずこの手順は守りましょう。税務調査では、しっかりとした取引事実があるということが重要になってきます。名義だけ変更してお金のやり取りも行っていない、契約書もないということだと税務調査では否認されてしまう可能性があります。
法人を設立したばかりだと、この車を買い取るお金が会社側になく、車両の購入代金を支払えないこともあります。その場合はローンのような形で返済計画を立てて個人に支払っていく形でもOKです。
陸運局で車両の名義変更を行う
個人と法人との間で契約書を締結しても、車検証に記載されている所有者が個人のままであれば、所有権が移転したという客観的事実として不十分ですし、実際に自動車税などの課税通知も法人ではなく個人に届くことになります。必ず名義変更を行いましょう。
名義変更の手順は割愛しますが、陸運局に行けば詳しく教えてくれます。
また会社の近くで新たに駐車場を借りる場合は、必ず法人名義で賃貸借契約を結びましょう。
これで駐車場代も法人の経費にすることができます。
手順としては以上3ステップです。名義変更などは慣れていないとちょっと面倒に感じるかもしれませんが、基本的に3ステップとも自分一人でできてしまうことなのでやってみると意外と簡単ですよ。頑張ってやってみましょう!
その他の注意事項
プライベート使用分については経費にできない
法人名義にすれば車に関する費用は100%経費にできるというわけではなく、たとえ法人名義であってもプライベート使用に相当する部分については経費にすることはできません。個人使用分というのがどの程度で、どのように分けるかというのはけっこう難しいところで、グレーな部分でもあります。
税務の原則的な考え方としては、実態に応じて判断ということになりますので、例えば距離の記録をして個人使用分の割合を按分して経費から除外したり、一週間のうち平日は仕事使用、土日は個人使用の場合であれば5/7を経費にしたり、土日使用分のレンタル料を社長個人から徴収する契約を結んだり、なんらかの方法で合理的に法人使用分、個人使用分を説明できる形で按分する必要があります。
もちろん、100%仕事で使っているということであれば問題ありません。
車庫証明を再取得する必要がある
車を法人に名義変更する際には車庫証明なども取り直しとなりますので、駐車場の確保など注意が必要です。原則的には会社の使用の本拠から2キロメートル以内に駐車場がないと車庫証明の取得ができません。このあたりの条件は事前に確認しておいてください。
どうしても会社の近くで駐車場を借りられない場合は、所有者を法人、使用者を個人として登録を行うことで、会社の代表者の住所地付近で車庫証明が取得できる場合もあるので、事前に陸運局に確認しましょう。
番外編:新たに外部から購入する場合には4年超経過した中古車を買う
ここまで基本的に個人所有の車両を法人に譲渡するということで解説してきましたが、新たに中古車を購入する場合についても説明しておきます。
「今期の売上が大きくなりそうなので車を購入して節税したい」
と考えて車を購入したとしても、車は税務上は「資産」ですので、必ず一括で費用にできるわけではなく、原則的には耐用年数に応じて複数年で費用化していくことになります。新車だと車両の耐用年数が6年のため、購入初年度は一部しか経費にできず、あまり節税メリットがありません。
ただし中古の場合、この耐用年数を短く計算することができます。例えば初年度登録から4年超経過している車を購入した場合、減価償却費の計算方法が定率法だと、購入した年度で100%(買った時期によって月数按分はあります)費用にすることができます。
新車が欲しいと思うのは当然ですが、そこはぐっと堪えて状態のいい中古車で我慢しましょう。よく「金持ちほど中古車を買う」と言われるのはこのためなんですね。
まとめ
以上、個人所有の車を法人に譲渡することによる節税について解説してきましたが、注意点をまとめると以下の通りです。
一言でまとめると、第三者から購入した場合と同じ取引を行う、ということが大事です。そしてその取引の客観的証拠をちゃんと残しておくということですね。
せっかく節税のために車の名義変更を行っても、税務調査で指摘をされて否認されてしまったら意味がないどころか余計なペナルティを受けることもありますので、しっかりと正しい手順で進めるようにしましょう。