今回は法人の経費のうち福利厚生費について詳しく説明していきます。
福利厚生費を法人(又は個人事業主)の経費として計上するためには事前に要件を把握し、場合によっては規定を整えておく必要があります。条件を知らずに節税目的で適当に経費計上した結果、税務調査で指摘されて経費にならなかった、または給与として課税されてしまったということも少なくありません。
今回は福利厚生費として計上可能な経費のうち「おさえておくべき支出10項目」と、「税務調査で指摘を受けないために事前に準備しておくべきこと」を解説します。
福利厚生費の内容は知っていても、例えば役員や事業主でも適用できるのか、金額はいくらまで大丈夫なのかなど、具体的に税務上どのように考えるべきなのか、税務調査ではどのように見られるのか調べてもよくわからないことが多いですよね。
今回は実際の税務調査の立ち会いを多く経験してきた税理士の視点から、税務調査で指摘を受けやすいポイントなど、実際の事例を踏まえて解説します。
福利厚生費は事業に関係のない支出が多く、税務調査でも指摘を受けやすい経費なので、ちゃんと理解をして処理しよう
福利厚生費とは
そもそも福利厚生費とはどういう経費かというと、一言でいうと「従業員の福利厚生を目的とした支出で、事業とは直接関連性がないもの」です。厳密にいうと法定福利費と法定外福利費というものがあるのですが、法定福利費は社会保険・労働保険といったような社会保障関係の会社負担分なので、この記事では法定外福利費についてのみ解説していきます。
意外と見落としがちな福利厚生費と交際費等との違い
支出の内容的によく混同されるのですが、福利厚生費と交際費のような他の費用とではでは何が違うのでしょうか。
基本的には、その支出の目的が事業に直接的に関係があるかどうかによって判断します。例えば飲食費などでいうと、取引先の接待や打ち合わせのために支出した飲食費は交際費、従業員の慰労のための食事会などの支出は福利厚生費となります。ざっくりいうと社外か社内かですね。
これだけの説明だと単に勘定科目の違いだと思いがちですが、ここで注意しなければいけないのは、交際費と福利厚生費では法人の経費にすることができる要件が違うということです。そのため、この二つの領収書を同じ感覚で経費に計上していても、実際に経費にできる要件が異なるため、税務調査で否認されてしまうこともあります。
例えば交際費には損金算入限度額というものがあり、ざっくりいうと中小企業であれば年間800万円までであれば法人の経費にすることが可能で、この金額を超えると一切経費になりません。(大企業の場合はこのルールではなく、飲食費の50%が損金というルール)
一方で福利厚生費は、この後詳しく説明しますが、残業時の食事支給であれば月に3,500円まで、忘年会や新年会などの慰労目的の飲食費は社会通念上常識的な金額の範囲内であれば経費にすることが可能、というように、同じ飲食であっても内容によって区別されます。
モノを購入してプレゼントした場合であっても、取引先に対するものであれば贈答品として経費にすることも可能(中小企業のみ)ですが、従業員に対してモノをプレゼントすると基本的には給与として所得税が課税されます。
福利厚生費は事業に直接的に関係がなく、社内の役員・従業員だけで自由に使うことができる支出であるため、なんでも経費計上OKにしてしまうと課税上問題があるという考え方なんですね。
ここでは、「福利厚生費は基本的に事業と関係のない支出なのでなんでも経費にできるわけではない」と覚えておきましょう。
- 福利厚生費は、従業員の福利厚生を目的とした支出
- 事業に直接的に関係しないので、経費にできる内容には制限がある
福利厚生費を経費とするための具体的な要件
福利厚生費はなんでも経費にできるわけではない、というお話をしましたが、ではどのような経費であればとして法人の費用にすることができるのでしょうか。福利厚生費として費用にするためには以下の要件を満たしている必要があります。
それぞれ解説していきます。
全従業員が対象であること
役員のみを対象、または一部の社員のみが恩恵を受けられるような設定だと福利厚生費として経費にすることはできず、給与という扱いになります。
役員に対する給与と認定された場合、役員報酬は期中での改定を認めていないことから、役員賞与という扱いになりそもそも経費にすることができなくなるため注意が必要です。
現金(または換金性の高い現物)の支給ではないこと
現金やそれに相当する商品券などの現物支給である場合、上記と同様に給与という扱いになり、所得税が課税されてしまいますので、原則的には、モノやサービスに対して会社が直接支払っているということが要件となります。
社会通念上妥当な金額であること
例えば健康診断費用などでも、高額な人間ドック費用など、目的を達成するのに必要十分なサービス以上の支出については同様に給与課税されてしまうリスクがあります。
この「不相当に高額である」という線引きは非常にグレーなので、明確に基準を示すことは難しいのですが、例えば人間ドックなどであれば、ホテル宿泊代などが含まれているもの、あまり一般的な健康診断項目でないものまで検査に加えている場合に否認される可能性があります。
福利厚生費の要件を満たさない支出は、給与として所得税が課税されてしまったり、そもそも法人の経費として認められないこともあるので、要件を満たしているかしっかりと確認しましょう
代表的な福利厚生費10項目とそれぞれの条件
それでは具体的にどのようなものが福利厚生費として認められるのか、経費にするためにはどのような事前準備をしなければならないのかを解説していきます。
今回はメジャーな具体例を10項目挙げておきます。中には福利厚生費ではなく旅費交通費などの他の勘定科目で処理されるようなものも含まれますが、福利厚生費と類似する内容ですのでまとめて確認してください。
1.法人社宅
福利厚生費の中で最も金額が大きく、かつ、継続的に恩恵を受けられるものとして社宅があります。
方法としては物件を会社で購入して役員や従業員に貸し付ける方法、賃貸物件を借り上げて役員や従業員に貸し付ける方法がありますが、いずれの場合でも役員・従業員から賃料相当額を徴収していれば、支払った家賃等は満額経費にすることが可能です。
社宅を経費にすることができれば法人の節税のみならず、役員・従業員の個人所得税の節税にも繋がるため、積極的に利用していきましょう。
社宅について解説すると長くなってしまうため、別の記事で詳しくまとめています。社宅を経費にする際の具体的な手順については以下の記事をご確認ください。
2.社員旅行・慰安旅行
こちらはイメージしやすいと思いますが、会社のメンバーで行く社員旅行・慰安旅行は福利厚生費として会社の経費にすることが可能です。ただし福利厚生費とするためには以下の要件があります。
- 全社員の50%以上が参加していること
- 4泊5日以内であること(海外旅行の場合には現地滞在日数でカウントし、機内泊を除く)
- 会社負担額が高額ではないこと
3つ目の金額要件については非常にグレーな部分ですが、税務調査の経験上、一人当たりの会社負担額が10万円以下であれば概ね少額であると判断されるのではないかと考えられます。
海外旅行の場合は10万円で納めることはかなり難しいですが、例えば一人当たりの旅費が25万円だったとしても、参加者から15万円を徴収するなどで、会社負担額を10万円に抑えることができればこの金額の要件は満たせることになります。
また上記の要件を満たしても社員旅行が経費にならないとパターンもありますので注意が必要です。
会社に従業員がおらず、実質的に家族経営の場合
役員とその家族しか従業員がいない会社というのは中小企業では少なくないケースだと思います。その家族経営の会社で社員旅行に行くとしたら、当然参加者は家族のみです。
家族だけの社員旅行は家族旅行であるとみなされ、税務調査では役員賞与として損金不算入の指摘を受ける可能性が高いと考えられます。
社員旅行に参加しなかった従業員に現金で手当を支給した場合
福利厚生費として費用にするためには全社員の50%以上の参加が要件でしたが、参加しなかった社員に手当などの形で給与に加算して支給している場合には、この手当は給与として所得税が課税されます。
この場合、その手当の受給を受けた不参加社員だけでなく、社員旅行に参加した社員もその旅費相当額が給与として課税されてしまうことになるので注意が必要です。
社員旅行を経費にするためには、不参加社員に対する手当支給はNGです。
3.新年会・忘年会等の社内行事
こちらも福利厚生イベントとしては一般的ですね。新年会や忘年会のほか、運動会やBBQなどの行事についても福利厚生費として法人の経費にすることが可能です。
金額要件としては社会通念上一般的な金額の範囲内ということになっていますが、よほど高額であったり、頻繁に行っているなどの事実がなければ問題ないででしょう。
あくまで福利厚生費ですので、全社員が参加できることが条件となり、法人の役員のみが参加する場合には該当しません。
また、不参加の従業員に対して金銭を支給する場合なども福利厚生費に該当しないこととなります。
4.健康診断(人間ドック)
一般的な健康診断だけではなく、人間ドックも福利厚生費として法人の経費にすることが可能です。
そもそも法人は従業員に対して年に1度の健康診断を受けさせることが会社の義務として法律で定められています。対象となるのは「常時使用する労働者」ですので、基本的には正社員と正社員と同等の勤務を行なっているパートアルバイトが対象です。
一般健康診断ではなく胃カメラやCTなどを含む人間ドックの場合でも、法人が全社員に対して負担する場合には経費にすることが可能です。
ただし、これも不相当に高額である場合には給与課税される可能性があります。例えばホテル宿泊プラン付き人間ドックなどは、本来の健康診断の目的以外にホテル宿泊というレジャー要素が加わっているため、税務調査では不相当に高額であると指摘されるリスクはあります。
実際の事例を見てみると、「人間ドック付き社員旅行」を会社で企画して、健康診断と社員旅行の両方の要件を満たしてまとめて実施する法人もあります。会社によって条件を満たすのが難しいかもしれませんが、おもしろいですよね。
なお、人間ドック費用は法人から検査機関に対して直接支払っていることが必要です。例えば従業員が各々で健康診断を受けてそれを会社に告知したら、あらかじめ決まった金額を給与に加算して手当支給する場合などは、福利厚生費ではなく給与に該当しますので、所得税が課税されます。
また、全従業員対象であっても何歳以上などの年齢制限を加えることは認められています。役員のみが対象といったような制限は、役員賞与として損金不算入となりますので注意しましょう。
5.食事支給
従業員の残業時の食事支給なども福利厚生費の範囲で経費にすることが可能です。飲食店などではよくまかないがついていたりしますよね。これも食事支給です。
ただこれにはなぜかかなり厳密な決まりがあり、以下の要件を満たしていることが必要です。
この3,500円という金額は例えば飲食店のまかないなどであれば原価ベースで考えて差支えありません。お店では1,000円で提供している食事でも、原価が200円であれば200円というカウントです。
ただこれってかなり非現実的な金額設定だと思いませんか?
飲食店などで毎日まかないを提供していたら、たとえ原価だったとしても月間3,500円なんてすぐに超過してしまいますし、飲食店以外の企業では外食やお弁当の支給なので、一食で1,000円程度かかってしまうこともあります。
また従業員が50%以上負担する要件についても、実際の食事支給の場合に金銭を徴収することなどは現実的に行われないことがほとんどだと思います。
そこで飲食店などでよく行われるのは、食事手当を支給して、同額を天引きするという方法です。ちょっとわかりづらいですね。
例えば一か月の食事支給のコストが10,000円だったとします。半分以上の従業員負担が要件ですので、従業員は5,000円を会社に支払う必要がある。そこでこの5,000円は給与から天引きしてしまいます。このままだと従業員はまかないのために毎月5,000円支払わなければいけないことになり、従業員によっては嬉しくない場合もあります。そこで「食事手当」として基本給に5,000円加算して支給する。そうすると従業員は自己負担ほぼ無しの状態でまかないの提供を受けることができます。
これは毎日必ず食事支給があり、かつ原価を抑えられる飲食店ならではの方法ですが、一般企業はどうすればよいのでしょうか。個人的な意見をいうと、中小企業の場合は、たまに従業員に食事を提供する程度であれば「社内交際費」として満額会社で負担してあげてもいいのかなと思います。
中小企業であれば月に800万円であれば交際費も損金になるわけですし、少額であれば税務調査で指摘を受けるリスクは小さいのではないかなと思います。もちろん、頻繁に食事支給を行っているようであれば給与と同等とみなされて所得税が課税されることもありますので注意が必要です。
6.慶弔金・見舞金など
慶弔金・見舞金とは、従業員に対して支払われる以下のような支出のことをいいます。
従業員やその家族の祝い事や不幸があった場合に支給します。福利厚生の一環で企業が任意に支払うものであり、給与の課税対象外となります。ただし金額要件として社会通念上相当の金額であることが要件とされています。
こちらの支給を福利厚生費として費用にするためには、会社の福利厚生規定などに慶弔規定として金額の要件などを定めておく必要があります。
福利厚生規定については後述しますが、どういった場合にはいくら支払うということを社員規則で定めておくということですね。基本的には役職にかかわらず、一律で定めておく必要があります。
7.保養所・別荘などの福利厚生施設
会社が従業員の福利厚生を目的として、別荘や保養所を購入するか賃借している場合、こちらも福利厚生費として経費にすることが可能です。全社員が利用できることが要件です。
従業員は保養所を無償か低額で利用できるためメリットを受けられますが、その従業員の利益が著しく多額である場合には給与として課税されてしまうことがあります。
金額の妥当性については明確な基準はありませんので、事業に影響を与えるレベルの高額な別荘などでなければ問題ないと考えられます。
税務調査でみられるポイントは、社長や役員の個人的な別荘を法人の経費にしようとしているのではないか、という点です。個人的な別荘である場合には当然経費にすることはできません。
そのような指摘を受けないためにも、福利厚生規定を整備して保養所に関する記載をしておくことや、実際に保養所を誰がいつ利用したかなどという履歴を遺しておくことが望ましいですね。
また会社には、「会社が所在しているだけで発生する税金(均等割)」というものがあるのですが、保養所や研修施設の所在地の自治体から均等割が課税されることになります。
均等割の金額としては資本金によって異なるのですが、例えば資本金1,000万円以下の中小企業であれば年間70,000円です。
均等割を支払っても保養所のコストを費用化することに節税面でメリットがあると判断すれば、節税と福利厚生を兼ねて保養所を持つという選択肢もあるかもしれませんね。
8.社外の福利厚生サービス
会社が自社内で行う福利厚生以外に、外部の福利厚生サービスを利用することも考えられます。わかりやすいものとしてはスポーツジムの利用料補助などですね。
具体的に施設を限定しなくても、福利厚生のアウトソーシングサービスを利用して、従業員が自分のニーズに合わせて自由に利用できるサービスというのもあります。大企業などはこちらのほうが主流かもしれません。
サービスによっては従業員1人あたり月額数百円~利用できるものもありますので、従業員の福利厚生の充実という意味では非常にコスパがいいと思います。スポーツジムなどを従業員全員対象で契約してしまうとかなり高額になってしまいますが、数百円程度であれば検討の余地がありますね。
そもそも中小企業でこういった福利厚生アウトソーシングプランを持っている企業は少ないと考えられるので、採用面でのアピールポイントになるかもしれません。
福利厚生サービスについてはいろいろな企業が提供しており、サービス内容も多岐にわたりますので、いずれ別記事でご紹介したいと思います。
9.出張手当
少し福利厚生としては趣旨が外れるかもしれませんが、出張手当についても就業規定等に定めることで従業員に支払うことができます。
通常従業員が出張を行なった場合には現地でかかった交通費、宿泊費、食事代などは領収書を預かって実費精算しますが、この出張手当はあらかじめ出張の距離や日数などに応じて日当などをあらかじめ決まった金額で支給することで、現地で実際に払った金額の実費精算は行わないというものです。
実際に支払った金額と日当に差額があった場合でも後日精算などは行いません。事務的な手間を省略できるとともに、出張手当として支払った金額は給与として課税もされないことから、個人の節税にも繋がる仕組みです。
こちらも福利厚生規定で具体的な金額を定めておく必要がありますが、不相当に高額な支給ではない限り給与として課税されずに支給することができます。
10.通勤交通費
所得税が非課税で個人に支払うことができる経費として、通勤交通費があります。
こちらも福利厚生とは若干異なるのですが、上記の出張手当と同様、個人の所得税の計算に含めず支払うことができるものです。
勘違いしている方が多いのですが、通勤交通費を支払うことは会社の義務ではありません。出社して勤務開始をしてからが就労ですので、そこまでにかかる費用は個人負担であってもかまわないものです。
ただ、多くの会社が通勤交通費を支給しているため、採用サイドとしては足並みを揃える必要があるということからほとんどの会社で通勤交通費の支給が行われています。
この通勤交通費、所得税が非課税となる金額に限度額があります。これは税法で定められている限度額ですので、この金額以上の金額を通勤交通費として支給した場合には、その超える部分の金額は給与という取り扱いで所得税が課税されます。限度額は以下の通りです。
車通勤はかなり細かく設定されていますが、ともかくこの支給額を超えた分は、たとえ通勤交通費として給与明細に記載して支給していたとしても所得税の課税対象となりますので、源泉徴収を行う必要があるということです。
また、実際にはもっと近い場所に住んでいるのに、非課税限度額いっぱいまで通勤交通費を支給するというようなことを考える方がいますが、これはもちろん給与課税されます。
通勤のために実際に必要な金額の範囲しか非課税にならないということですね。
上記以外
上記の10項目以外にも、全社員が利用することができ、従業員の福利厚生を目的とした支出で、金額も常識の範囲内であるものについては福利厚生として検討する余地があります。
福利厚生費は具体的な決まりがないグレーな経費であるため、税務調査の際には個別事例に照らして協議を行うことになります。税務調査で福利厚生費について指摘や質問を受けた際に、どういう目的でどういったサービスを利用しているのかを明確に答えられるようにすることが大事です。
福利厚生費としては認められない経費
次に、逆に福利厚生費として経費にすることが認められない支出についても触れておきます。
具体的には以下のような経費は福利厚生費として認められず、節税目的で計上しても税務調査で否認されて逆にペナルティが発生してしまうこともありますので、注意しましょう。
実質的に給与と同等の性質があるもの、過度な経済的利益の提供などは給与として取り扱われてしまうということですね。役員の場合は役員賞与となりますので、全額が経費として認められませんので注意しましょう。
福利厚生規定を作成しよう
ここまで福利厚生費として経費にできるものの具体例を紹介してきましたが、いくつかの経費は事前に就業規定や福利厚生規定を定めておかなければならないものがありました。
就業規則や福利厚生規定をしっかりと作りたい場合は社労士さんに依頼をして作成してもらいましょう。この記事では福利厚生規定に入れるべき項目の例をお伝えしておきます。
あくまで一般的な例ですので、これで税務調査対策は完璧!などと考えずに、必ず顧問税理士に確認してもらいましょう。
あくまで一例ですが、それぞれご説明した金額の範囲を超えないように具体的に設定してください。
「社旗通念上妥当と思われる金額」という部分については判断が難しいと思いますが、困った場合は顧問税理士にご相談されるのがよいかと思います。
上記のほか、出張旅費については「旅費規程」を作成しておきましょう。
福利厚生を充実させるメリット
福利厚生を充実させることで、法人にもたらされるメリットは以下のようなものが考えられます。
節税効果
法人にとって経費にできる範囲が増えることで、法人税の節税に繋がるのはわかると思いますが、実は個人の節税効果もかなり大きいです。
特に社宅などは、今まで給料として課税されていた金額から支払っていたものが、会社が大部分を負担してくれることで課税支給額を抑えることができます。会社は会社の負担分、額面給与を落とすことで支出額を抑えることができますので法人にとってもあまりデメリットがない方法といえます。
ただし、額面給与を落とすことで最低賃金を下回ってしまうと法令違反になってしまいますので、バランスよく設計しましょう。
従業員のモチベーション
直接的な給与アップではありませんが、福利厚生が充実している会社は従業員にとってプラスな面が大きく、特に中小企業で福利厚生が充実している会社というのはほとんどありませんので、採用面で大きなメリットがあると考えられます。
従業員が会社で働きたいと感じで長く勤めてくれれば採用コストも縮小できますし、見えないところで発生している教育コストも抑えることができます。
従業員の心身の健康
誤解を恐れずにいうと、中小企業はブラックになりがちです。特にベンチャー企業などでは、会社がいくら気を付けていても従業員のモチベーションが高く、従業員自身が時間の許す限り働いてしまうということもあるでしょう。
会社としてはありがたい反面、コンプライアンスにも問題はありますし、何より従業員が健康を損ねてしまったら本末転倒です。就業規則や福利厚生規定を充実させることで、そういった従業員の健康管理や就労管理にも効果があると考えられます。
福利厚生を充実させるデメリット
次に福利厚生を充実させるデメリットを考えてみましょう。
コストが発生する
福利厚生を充実させるデメリットで一番大きいのはコストが発生するということです。
福利厚生費は全従業員が対象である必要がありますので、定めた福利厚生規定は全従業員に対して適用する必要があります。
実際に従業員が全ての項目について申請するとは限りませんが、支出が増加することは覚悟しておく必要があります。ただ、節税効果を考えると、税金で払うくらいなら従業員にという考え方でもいいのかもしれません。
管理や事務の手間
福利厚生規定や旅費規程、就業規則などを作成しなければならず、また従業員からの申請があった場合に申請書の管理などの事務的な手間が発生することもデメリットの一つだと思います。
もともと就業規則などは、従業員を雇用している法人であれば必ず作成すべきものですので、福利厚生を充実させるために作成するというわけではありませんが、中小企業では曖昧になっていることも多いですよね。
この機会にしっかりと就業規則や各種規定を整えると割り切って進めるのがよいかもしれません。
逆に従業員の間で不公平が生じることも
福利厚生を整えても、それを利用できる従業員とそうではない従業員の間に格差が生まれて、逆にそれが従業員の不満につながることも考えられます。
例えば健康診断や人間ドックなどで年齢制限を設けている場合や、社宅を利用できる従業員、できない従業員(ご自身で持ち家を購入している等)がいる場合などです。
人間ドックはともかく、社宅はかなり所得への影響が大きいので、不公平感はあるかもしれません。その場合は例えば住宅手当のような形で、福利厚生費にはなりませんが、割増給与を支給することでバランスをとることも必要になるかもしれません。
まとめ
ここまで福利厚生費について網羅的に解説してきましたがいかがだったでしょうか。
福利厚生費は節税目的というよりも主に従業員に対する給与以外のメリットという側面が強いので、短期的には劇的な節税効果は得られませんが、社宅や健康診断など、生活や健康維持に必ず必要になってくるものを経費にすることができるので、長期的にみると効果のある施策だと思います。
ただし福利厚生費の内容は基本的には事業の収益に直接的には関係がなく、個人的に便益を受けるような内容が多くなりますので、経費計上を考える際には必ず顧問税理士に相談しながら線引きを決めていくことが重要です。